020_アウトサイダーであり続けよう

投資家はみんなアウトサイダーです。いや、「はぐれもん」とかそういうことではありません。投資家は基本的には会社の中に奥深く踏み入ることはなく、外側から、無機質に並べられた一定量の情報だけを頼りに、投資対象となる上場会社の将来的な成長や短期的な利益をタイムリーに見極め、リスクを覚悟で、たいせつな資金を思い切って投下します。

この“みんな同じ立場と条件で取引すること”が大前提となるから、投資家は実質的に平等であり、取引を行う場所は単純化され、純粋に会社の活躍度合いと取引の動きだけによって、値が上下することとなります。このようなシンプルな有り様であるがゆえに、恣意性が排除され、金融市場の公正さが保たれるわけです。

すなわち、いつだって金融市場は、公正であり、健全であり、投資家に信頼される姿をしていなければいけません。そして、整然としたルールや情報や投資家自身のスキル等によって、投資の有益性や投機の勝ち負けが決まらなければなりません。

だからこそ、上場会社の内部(インサイド)にいる者、つまりインサイダーが、市場の縁にいるアウトサイダーでは知り得ない情報に基づき、株式を売買することは、許されないのです。
そのようなことを許容すると、一律の情報提供を前提とする金融市場の原理原則が失われしまい、公正性と健全性が確保できないからです。そしてそんな市場を投資家は信頼してくれなくなってしまい、市場が崩壊します。そうすると経済が大混乱します。
この 「市場の公正性と健全性による投資家の信頼」 こそが、金融商品取引法166条の内部者取引禁止(インサイダー取引禁止)規定の保護法益です。

「ひとりだけ儲けるのはズルイ!」という価値観もあると思いますが、インサイダー取引禁止の根幹はそうではありません。儲けようが儲けまいが罰せられる
なぜならば、インサイダー取引は損得の問題ではなく、「市場の公正性と健全性による投資家の信頼」という保護法益を侵害する行為だからです。結果いかんにかかわらず罰せられる点は、 公共の危険を害する放火罪とちょっぴり似てますね。

ということで、投資家は、常にアウトサイダーでなくてはなりません。

そして、社員や役員など、原則として上場会社のインサイドにいる人たちは、自社の株式の売買は極めて慎重になければなりません。
大手の上場会社であれば、たとえば決算情報や新商品情報など株価に影響を与えそうな情報の共有は、ごく限られた「インサイドの中のインサイド」にいる人たちだけに限定したうえで当該役職員の売買を禁止し、一般社員についてはアウトサイドに置くことにより、社内においてもインサイダーとアウトサイダーとの間に情報隔壁を置くという対策も大切です。

最近、品質不正で大きな問題となった上場会社のある社員が、その品質不正問題を会社が対外公表する前に、自分が所有する自社株を売り抜けた事案が報道されています。不正情報をもとに不正行為をする。これはもはや金融商品取引法166条に予定されている保護法益の侵害だけにとどまらないでしょう。

多くの投資家だけではなく、当該会社とつながる株主、取引先、社員その他すべてのステークホルダーの信頼を裏切った。このことで、実行行為者本人だけでなく、それを許した会社の態勢も強い批判を浴びるのは大変哀しいことです。

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