017_契約書に印鑑を押す意味

印鑑ってなんで契約書に押すんだろうというお話です。我が国特有の文化だと思いますが、とにもかくにも印鑑、印鑑、印鑑。
しかも、実印>認印>シャチハタという強弱関係。なんなんすかねこれ。


ということで、これまでの記事でも書きましたが、
① 契約は当事者意思の合致により成立する法的な拘束
② 契約は口頭でもOKだけど後で証拠になるから契約書は大事
そして本日は、
③ その契約書を「偽物だ!」といわれないような工夫も重要
というお話です。

民事訴訟では、③の真偽判断にやたらと時間をかけたくないので、ある合理的な2段階のルールが存在します。

1段階
印鑑が押してあれば、それは普通は本人の意思に基づいているのだろうから、それを否定したい側が「盗まれた印鑑だ」などと覆えせない限り、事実上、本人の意思に基づいているものと考えてしまおうというルールです。

「普通は」と書きましたが、これは「印鑑ってきちんと管理するものだから、やたらと他人には渡したりしないし他人が偽物つくったりはしにくいよね」という経験則に基づくものです。法律には明文化されていないのですが、この考え方をベースにした有名な最高裁判決があります。

 「私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定」(最判昭39.5.12)

2段階
本人の意思に基づいているんだから、印鑑の押してある文書については、それを否定したい方が「あとで変造されたんだ」などと覆せない限り、法律に基づき、真正な文書と考えてしまおうというルールです。

これは法律に明文化されています。

「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」(民事訴訟法第228条4項)

つまり、1段階目の最高裁判例の考え方を踏んで、2段階目の法律の規定に合致すると考えていきます。これを「二段の推定」というふうに言って、この推定を覆すのはなかなか大変といわれています。
が、そのような用語はともかく、実務上は、
印鑑を押しておくと後々裁判になったときに超有利
という理解をしっかりしておけば、よろしいのではないかと思います。

では、一歩踏み込んで、なんで「実印」なるものが大事なのか?ということも、もうお分かりのはずです。そうです。1段階目の対策です。

印鑑登録には、それなり印影のものを所定の手続きを踏んで登録することが必要で、印鑑証明を取得する際の印鑑カードもしっかり保管されるはずなので、「これは簡単には他人に使用されたり偽造されたりしない印鑑なんです」感をがっつり醸し出せるわけです。

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