公務員に対する贈収賄は、いったい何を侵害するのでしょうか。言い換えれば、贈収賄罪の保護法益は何でしょうか?
これは刑法の贈収賄に関する解説を読み漁るより、意外にこの法律にわかりやすいヒントがあったります。
それは、「行政手続法」です。
法律の目的を定める 第1条第1項を見てみましょう。
第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
行政手続法は、行政機関による処分や指導について、具体的かる詳細な手続きを定めているのですが、その目的は行政運営における「公正の確保」と「透明性の向上」による「国民の権利利益の保護」です。この保護法益のために全46条にもなる法律が定められているのです。
裏を返せば、ここまで立派な法律を作らなければいけないほど、国民の権利利益は侵害され易いということです。
1.贈収賄
ましてや、行政手続きを金で買おうなどはもってのほか。
これが贈収賄罪の発想です。贈収賄罪の保護法益は、「職務行為に対する国民の信頼」です。贈収賄に関しては、刑法に多くの条文が規定されていますが、一例を以下に挙げます。
第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
マーカーの部分、注目です。「要求」だけでアウトです。「金をもらったかどうか」ではなくて、「国民の信頼を裏切る」という法益侵害の有無で決まるからです。
2.みなし公務員
そして、この公務員についてですが、一見民間人に見えても、刑法とは別の法律で公務員とみなされている場合がります。例えば日本年金機構法では、
第二十条 機構の役員及び職員(以下「役職員」という。)は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
とあります。これが「みなし公務員」です。この定めがあるがゆえに、年金機構の役職員には、刑法197条などの贈収賄規定が適用されます。
3.国家公務員
国家公務員は、「国家公務員倫理法」「国家公務員倫理規程」というさらに厳しいルールが適用となります。利害関係者との間については、贈与・接待は原則禁止です。人事院に詳細が掲示されています。
人事院ホームページには国家公務員倫理に関するQ&Aが掲載されているのですが、このQ&Aのひとつが象徴的ですので挙げておきますね。
Q7 国家公務員が利害関係者から金銭・物品の贈与を受けたりすることを禁止することは分かりますが、割り勘の場合のゴルフや旅行まで禁止するのは行き過ぎではないでしょうか。
A どのような行為が禁止されるべきかについては、これまでの公務員不祥事の実態を見る必要があります。その中で、ゴルフや旅行については、過去に過剰接待の舞台となった多数の事例があり、最近でも、利害関係者の負担で海外へゴルフ旅行に行った事案が発覚しています。たとえ割り勘だとしても、公務員が自分が許認可等を与えたり、補助金の交付決定をする事務に携わっているその相手方と、一緒にゴルフや旅行をしたりする姿を一般の人が見れば、職務の執行の公正さに対して疑問を持つのではないでしょうか。このため、割り勘の場合でも、ゴルフ・遊技や旅行を禁止することとしています。
この「一般人の」目線がとても大切です。
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