押印は甲が先?乙が先? 日付は甲乙どっちが書くの?
この疑問での答えを書く前に、まずこの一文を見てみましょう。
「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」
これは、民法の勉強のかなり始めの方で、「意思主義」あたりを学ぶときに知る基本知識です。
意思の合致で契約は成立する。だからこそ意思表示をした当事者達は、合致した意思に法的に拘束されるのだと。
意思の合致によって契約が成立するということは、契約を理解するうえで大前提となる考え方なのですが、これまで民法には、はっきり書かれていませんでした。
120年以上前に制定された民法は、そもそも当たり前のことがちゃんと書かれていない法典で、永年の判例や学説の積み重ねで、その前提への理解が深められて来たのです。
そして、約2年前の民法(債権法)の大改正で、冒頭の一文は民法522条1項としてついに規定され、来年(2020年)4月に施行されます。これで、冒頭の疑問なども理解する端緒になるのではないでしょうか。
署名や押印こそが意思表示の証。そして、その合致が大事なのであって、始める順番は甲と乙、どっちが先でもOKです(※)。
日付に関して言えば、甲が先に署名・押印し、後で乙が署名・押印した場合は、甲の「締結の申し入れ」に対して乙「承諾」がしたことになるので、乙の承諾日が契約の成立日です。
なので、契約実務では、
☑ 甲乙どっちが先でもOK
☑ 先に署名・押印する方は2通とも日付を空欄にして相手方に渡す・
☑ そして、後で署名・押印する方が2通とも日付を入れて、1通を返す。
というのが一般的だと思われます。
(※)ご注意:国との契約の場合は別物。国の方が後です!
大蔵省令に基づき定められた「契約事務取扱規則」14条2項には、
「契約担当官等が前項の契約書を作成する場合において、当該契約の相手方が隔地にあるときは、まず、その者に契約書の案を送付して記名押印させ、さらに、当該契約書の案の送付を受けてこれに記名押印するものとする。」となっています。地方自治体なども同じようなルールがあったりしますので、ご留意ください。
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